何時の間にか共にいない事が当たり前になっていた。何が、誰が、そうしたのかは分からないけれど、それが自然の流れだった。
 そんな状況では、気持ちを告げるのですら憚られて。
 最初は僅かしかなかった筈のそのずれが、後々大きくなってきて。そこでようやく、違えてしまった道が、交わらない事に気が付いて。

 好きだ、と。

 その一言が、ただ言えず。
 今更何と伝えれば良いのかも、分からずに。
 伝えて良いのかすらも、分からずに。



 私は今日も、彼の人を密かに想う。










I wish I were a bird. 私が、鳥だったら良いのに。










「ラクスはさ…」

 言いにくそうに、視線を泳がせながら切り出したカガリの言葉に、名前を呼ばれたラクスは「なんでしょうか?」と続きを促すように小首を傾げた。
 世界中を巻き込んだ戦争が終わってから数ヶ月――世間から隠れるようにしてオーブに身を寄せたラクス達の元を、カガリは、元国家元首の娘という立場上決して暇ではない筈なのに、それでも頻繁に訪れていた。時間が出来たから、近くまで来たから、と些細な理由をつけては足を運んでくる彼女を、もちろん邪険には扱いはしないのだけれど、少し心配には思う。無理をしているのではないだろうか。笑顔の下に潜む疲労を思うと、こうして日がなのんびりと生活している自分を申し訳なく感じてしまう。
 だからせめて彼女が来た時くらいは心休まるようにと気を遣って、今日はとっておきの紅茶を振る舞ってみたのだが。
 ちなみにキラはアスランと共に街中に繰り出してしまったし、彼の母親であるカリダも買い出しに行くとそれに便乗していった。マルキオ導師は子供達に連れられて近くを散策している筈だから、今この場にいるのは自分とカガリの二人きりだ。こういう状況も珍しかったが、彼女が戸惑うようにして言葉を発したのは、それ故の事かもしれなかった。
 遠くで波の音がする。この家は海が近い。潮風に揺られるように、ラクスの足下でピンクのハロがコロコロと揺れる。気持ち良さそうなその様子――尤も、制作者曰く、機械に感情はないらしいから、そう見えるだけ――に、ラクスの頬も自然と緩んでしまう。

「ラクスは…その。ハロの事、とても大事にしてるんだな」

 そんなラクスの内心を読んでいたかのように。カガリが続けた言葉の内容は、まさにそのピンクの球体についてだった。
 何を今更。言葉の意図が分からずに、ラクスはぱちくりと目を瞬かせる。だってラクスがこのペットロボを気に入っている事など周知の事実なのだ。いつも一緒にいて、もはやシンボルとすら化している。その送り主が元婚約者であるアスランである事もまた皆の知る所で、まぁそうですわね、と気の抜けた声で肯定の返事を口にした。だから何なのだ、という疑問の声も、暗にそこに含まれている。
 カガリはちらりとハロに視線を向けた。相変わらずコロコロ揺れているそれは、今は口を閉ざして大人しい。些か多弁なロボットではあるが、多少は場の空気を読んでいるらしい。
 そうしてカガリの視線が自分からそれている間に、ラクスは空になったカガリのカップに紅茶のおかわりを注いでやる。少し冷めてしまってはいるけれど、まだ十分に美味しい筈だ。カチャン、と茶器がたてた音に、カガリはハッとしたようにこちらに向き直した。

「あ、すまない。ありがとう」
「いえ、どういたしまして。…で、ハロがどうかしまして?」

 何だか自分から尋ねない限りは、カガリは上手く言葉を紡いでくれそうにない。察したラクスが、穏やかに問いかける。
 カガリは、「ああ」やら「うう」やら小さく呻き声を漏らしたが、やがて観念したように溜め息を吐く。

「…いつまで、持ってるつもり?」

 その主語の抜けた簡潔な問いに、ラクスはニコリと微笑みを浮かべた。

「…そうですわね。それにお答えする前に、どうしてそんな事をお聞きになるのかを、まず教えて頂いてもよろしいでしょうか」

 答え方は穏やかだが、口調が些か厳しいものになったかもしれない。カガリもラクスの機嫌を損ねた事に気付いたらしい、驚いたように僅かに目を丸くしている。けれどもそんな彼女の反応は、ラクスにとっては逆効果にしかならなかった。
 普通に、腹が立ったのだ。
 何故にカガリにそんな事を言われなければならない。意味が分からない。まるで、もうハロを持っていてはいけないような言い方。カガリには関係ないではないか。そして、自分の言う事は間違ってないのにと、そう言わんばかりのカガリの驚きだって。

「どうしてって…お前、アスランとは別れたんだろ?」
「…だから?」
「いや、だからって言われても…普通は、だったら捨てるなりなんなりするんじゃないのか?いや、捨てるは言い過ぎにしても、どこかに仕舞うとか…。キラだって、いい気はしないんじゃないか?」
「何でそこでキラの名前が出るんですか。関係ないでしょう?」

 貴女だって。内心でそう付け足しながら、ラクスは笑みを絶やさない。そうするとカガリは怯んだように、サッとラクスから視線をそらした。
 どうやら自分は苛立が頂点に達すると笑顔になるらしい。これは新しい発見だ。そしてそれは、結構に効力があるらしい。少しばかり気を付けなければ。

「関係ないって…ラクスだって、キラが例えばフレイから貰ったものとか持ってたら、嫌だろ?」
「フレイ?……ああ、あのアークエンジェルにいらした?」
「そう、知ってるだろ?」
「ええ、よくは存じませんけど。でも、その方が何だと言うのです?」
「何って、だから…!」

 なかなか噛み合ない会話に、カガリの方も苛立ちを隠せないようだ。声を荒げて、その直後に己の失態に気付き恥じ入るように咳払いをして。

「昔の恋人のものなんか、持っていて欲しくないって。思うだろ」
「……ああ、そういう事」
「ラクスがハロを好きなのは知ってるけど、一応、それが何なのか、ちゃんと考えるべきだ。…ラクスは、そういう事に関しては、少し…無神経というか、無頓着すぎると、思う」

 無神経はどっちだ。何をさも全て知っているとでもいいたげな顔で口にしているのか。ラクスはフッと、カガリには気付かれない程度に嘲笑を漏らした。
 キラの名前を出して気遣っている振りをして、そうして偽善ぶってはいるけれど、本当は自分が嫌なのではないか。アスランに貰ったものをラクスが大事にしているという事に、それを周囲が普通に受け止めている事に、そしてアスラン自身でさえ認めている事に、単にカガリが嫉妬しているだけなのではないか。
 だとしたら、とてもとても不愉快だ。
 まるでアスランの全ては自分のものだとでも言うその態度は、とてもとても気に入らない。それならばいっそ、正面きって本心を伝えてくれた方が、まだマシだ。

「カガリさん。いくつか、お教えしておきますわ」
「何…?」
「私とキラは、まず恋人同士ではありません。誤解なさらないで下さいな」
「……え?」
「仲が良い男女が全て恋仲になってしまうのなら、世の中カップルだらけになってしまいます。異性間の友情も成立するのだという事を、今日からでもお心に留めておいて下さいな」

 事実を伝えるついでに嫌味を付け加えたのはわざとだ。案の定、カガリは戸惑いを露にする。

「そして次に、ですが。私がアスランを好いていないような言い方も、好ましくありませんね」
「…好ましくないって…じゃあ、それじゃあラクス…」
「婚約者が恋人でも、恋人が婚約者であるとは限りませんもの。それは貴女も知っていると思っていましたが」

 だって貴女にも婚約者がいらっしゃるでしょうと言えば、反論出来ないのかカガリはキュッと口を閉ざした。

「それから、貴女とアスランの仲を誰もが認めて応援しているのではないという事も、どうぞご留意くださいませ。前向きなのは貴女の美点ですが、それがいつも正しくあるのではないと、そろそろ知っておいた方がよろしいかと思いますよ」
「……ラクス」

 少し言い過ぎたか。見るからに落ち込んで項垂れるカガリに、少しばかり罪悪感を抱く。
 フォローをしておいた方がいいかもしれない。自分自身の心を落ち着ける為にすっかり冷めきった紅茶を一口含んで、ラクスは出来るだけ優しく見えるように笑みを浮かべ直した。

「カガリさん。私がハロを持っているのは、ハロが“ハロ”だからなんですよ」
「……は?」
「ハロが、“ハロ”だからです」

 カガリは意味が分からないとばかりに眉を寄せる。けれども分からなくて当然だ。敢えて分からないように、謎かけのような言い方をしたのだ。
 ただ、このままではさすがに可哀想なので、もう少しだけ言葉を付け加える事にする。

「もしハロが“トリィ”でしたら、私はカガリさんの言うように、もしかしたらどこか奥深くに仕舞っていたかもしれませんわ。ですがハロは“ハロ”ですから、その必要はないと思ったのです」
「…えっと、ごめん、どういう…?」
「だって“トリィ”は飛んで行ってしまいますもの」
「飛……まぁ確かにトリィは鳥だから、確かに飛ぶけど…」
「ええ、ですがハロは飛びませんから」
「…つまり、飛んで戻って来なかったら、嫌だからって事か?でもトリィは賢いから、そんな事はないと思うんだが」
「そうですわね。アスランが作ったものですもの、それで当たり前でしょうね」

 ラクスはふと視線を遠くへ向けた。視界の端に、見覚えのある車が映ったからだ。
 アスランの車だ。買い物を終えて帰って来たのだろう。彼等が帰ってきたならばこの話題は出来ないだろうし、どちらにしても彼等を出迎えなければとラクスは椅子から腰を上げて、そこで自分はカガリの問いにきちんと答えていない事に気が付いた。
 畳み掛けるように言葉で責めたからカガリ自身もどうやら質問の事を失念しているようだが、はぐらかしてしまったようで何となく後味が悪い。
 ラクスに倣って立ち上がろうとした彼女に向かって、カガリさん、とラクスは呼びかける。

「カガリさん、質問の答えです。私は多分、死ぬまでハロを手放しませんよ」
「え?」
「ハロは私が私である、証明のようなものですから」

 ハロは私がアスランを想う、証明のようなものだから。
 呆けるカガリに背を向けて、ラクスは長い髪を靡かせながら彼等を迎える為に軽快に駆け出した。














 家の外に立ち、遠ざかって行く車を見えなくなるまで見送って、そうしてラクスは小さく息を吐いた。
 あれから皆で夕食を囲み他愛ない会話を交わし、そうしてアスランとカガリが家を後にしたのは辺りが夕闇に包まれた頃だ。カガリはまだ帰りたくなさそうであったが、明日も忙しいのだからとアスランが何とかたしなめていた。
 その2人のやり取りは、もしかしたら彼等を知らない人から見れば恋人同士に見えたのかもしれない。何とも微笑ましい光景に、キラもカリダもマルキオも、そしてラクスも笑みを浮かべて見守っていたものだ。けれども、事実2人がそんな関係でなくてもやはりラクスにとっては面白くなかったので、最終的にはアスランに味方して、そのじゃれ合いが終了するように仕向けてしまったが。

「ね、カガリとどんな話してたの?」

 傍らにいたキラが問う。まさかそんな事を聞かれるとは思わなかったのでラクスはきょとんと目を丸くして、唐突な質問ですわね、と正直に口にした。

「ん〜…何かね、帰って来てからのカガリの様子がちょっとおかしかったから。君の事、凄く気にしてるみたいだったよ。チラチラ君に視線送ってたけど、あれじゃああからさますぎてすぐに気付かれちゃうよ」
「ふふ、カガリさんは真っ直ぐな方ですから。隠し事が出来ないんですね」
「だね。…で、何を話して彼女はああなったのかな?」

 そうですわね、とラクスは悩む素振りを見せる。話しても大丈夫かと考えたのだが、相手はキラだと思うと特に問題はないかと結論付けた。
 別に隠す程大した事でもないし。本人でもないし。困る事など、一つもなかったから。

「ハロについて、ですわ」
「ハロ?」
「ええ。婚約者でもないのに、いつまで持ってるんだって」
「…そう。それで、ラクスは何て答えたの?その話からすると、カガリのアレは、君の答えが原因なんでしょ?」
「かもしれませんね。少し、意地悪な言い方をしましたから」
「うん、だから何て?」

 ラクスはそれに答えようと口を開きかける。が、しかしその寸前に、キラの肩にとまっていたトリィが鳴き声を発しながら空に飛んでいった。まるで自分の心情を察したかのようなタイミングに、ラクスは口を噤んだ。
 トリィは向かう。まるで先程走っていったばかりの車を追う様に――彼を、追う様に。
 自然と、ラクスとキラの視線はその姿を見つめる事になる。トリィが勝手に飛んでいってしまうのは別に今に始まった事ではないので、持ち主であるキラも特に慌てる素振りもない。その内、何事もなかったのように帰ってくるのだ。

「…ハロがもしトリィだったなら。私は持ってなかったですわ、と。そう、お答えしました」
「ハロがトリィ?何で?」
「だって飛んでいってしまうでしょう。ああやって……アスランの所に」

 ラクスの言葉に、合点がいったのか、キラが「ああ」と納得したように頷いた。確かにあの鳥は、まるで創り主の事が分かっているかのように、よく彼の元へと飛んでいくのだ。

「私の想いも、一緒に乗せていってしまいそうで。だけどハロなら飛びませんから、私の所に、留まっていてくれるでしょう?」
「だけどハロも、よくアスランに纏わりついてるけど?」
「それくらいならいいんです。だって、私の目の届く範囲ですから。ハロがいてもいなくても、私がいます」
「…そっか」
「……そんな考え方は可笑しいって、笑われますか?」

 だって普通に考えて、機械に想いがどうこうと分かる筈がないだろうと、そう言われても可笑しくないのだ。笑われなくても、余程メルヘンチックな思考か感傷的になりすぎているのだろうと、思われたって仕方がない。
 キラに限って、そんな人を傷付けるような反応はしないと思うけれど。
 やはり少し不安になって、ラクスは窺うように傍らの少年を見上げた。キラはというと、そのラクスの態度が意外だったのか、驚きに数度目を瞬かせて、それからすぐに、安心させるように優しげな笑みを浮かべて見せた。

「トリィも、よくフレイの所に飛んでいったよ。あの時はあんまり考えた事なかったけど、もしかしたら、僕の気持ちがそうさせてたのかもしれないね」
「…キラ」
「だから、うん。ラクスの気持ちは、分かる。可笑しいだなんて、笑わないよ」
「ありがとう…ございます」

 ああ、やはりキラは理解してくれた。嬉しさに、少し泣きたくなる。
 そんなラクスの耳に、トリィ、と高らかな鳴き声が届く。トリィが帰ってきたのだろう。定位置であるキラの肩にとまったトリィは、まるで本物の小鳥のように小さく首を傾げてさえずった。

「じゃあ、そろそろ中に戻ろうか。さすがに夜は、少し冷えるし」
「はい、そうですね」

 促すキラに、素直に頷く。先に身を翻したキラの背を見つめ、しかしラクスはしばらくその場に佇んだ。
 本当は。
 キラに先程告げた言葉の中に、偽りはない。ハロがトリィでなくて良かったと言う理由に、確かにトリィは飛んでいってしまうからというのはある。まるで自分の心を見透かしたように、彼の所に飛んでいってしまうからというのはある。
 だけど本当は、それだけではなくて。
 見えないのは承知で、もう一度車が去っていった方向へと視線を向ける。ああ、もし――もし私が、鳥だったならば。

「飛んでいくのにね」
「…え?」

 ラクスは弾かれたようにキラの方を見た。
 てっきりもう家の中へと入ってしまったのだとばかり思っていたキラは、扉の前でラクスの方へと振り返っている。それだけでも十分に驚きなのだけれど、彼は今、何と言ったのだろうか。
 驚きに目を見開いて固まるラクスに向けて、キラはもう一度、先と同じ台詞を口にした。

「飛んでいくのにね。もしも自分が鳥だったなら、大切な人の元に飛んでいくのに」
「キ…ラ?」
「だけど僕達は鳥じゃないから…だから自由に飛べる鳥を、羨ましく思うんだ。飛ぶ事が羨ましいんじゃなくて、自由が、羨ましい」
「……」
「ラクスは時々、そんな顔をしてる」
「…そうですか。上手く隠しているつもりだったんですけれど」

 敵いませんね、とラクスは苦笑した。全く以って、キラの言う通りだ。
 羨ましいのだ、トリィが。何にも縛られる事なく自由に飛ぶ鳥の姿が、まるで自分とは正反対のようで。元婚約者、親の仇、周囲の目、そんなものに囚われて、慕っているにも関わらずいつの間にか彼の人と道を違えてしまった自分とは、正反対のようで。羨ましいと同時に、少し妬ましくもある。
 だからもし、自分の手元にあるのが“ハロ”ではなく“トリィ”だったならば。
 きっと、多分耐えられなかった。不自由な自分の元に自由な“ソレ”を残していく彼を恨めしく思い、けれども恨め切れずに愛しく思い、どうすれば良いのか分からずに、目に見えぬ所に封印してしまっていただろう。捨てる事は出来ない。だってそれでも、“ソレ”は彼がくれたものだから。

「だけどさ、ラクス…」
「はい?」
「鳥を羨ましく思っても、鳥は…少なくとも人間相手に、想いを伝えられないよ」
「キラ…」
「そんな顔するぐらいなら…僕は、君はもう少し素直になってもいいと思うけどな」
「でも…」
「案外相手も、君が飛んできてくれるのを待っているのかもしれないよ」

 ラクスはヒュッと息を呑んだ。キラの言葉が信じられなかったのだ。そんな訳がない。きっとキラは自分の事を慰めようと、そう言っただけに違いない。そう思い込まないと、今までの自分は一体なんだったのだと、悲しくなるではないか。
 ゆるゆると首を左右に振る。その動作に、キラが残念そうに眉を下げたが、ラクスは自分の答えが間違っているとは思わない。キラの優しさを嬉しく思い、大丈夫だという意を込めてラクスは笑みを浮かべたが、何故か自分ではなくキラの方が泣きそうな顔をしていた。

「私はきっと、これからも、今までと同じで」
「ラクス…」
「いいんです。私には、“ハロ”がありますから」

 ゆっくりと、足を踏み出す。立ち止まったままのキラの横に並び、追い越して。少しだけ振り向いて、キラに告げる。

「だから私、“トリィ”なら、いりません」

 その言葉に目をみはったキラが、次の瞬間には仕方がないなとばかりに苦笑を浮かべた。

「本当に、馬鹿だね、君は」

 それが、自由な鳥をただ羨む自分に言ったものなのか。想いを告げられない自分に言ったものなのか。もしくは、最悪のままの現状を望む自分に言ったものなのか。或いは全てなのかもしれない。真意はよく分からなかったが、的を得てはいるだろう。
 不意に涙が溢れそうになって、誤魔化すように笑みを作った。多分、泣き笑いのような顔になってしまっただろう。けれどもその精一杯の強がりを、今は崩すわけにはいかないのだ。

「貴方に言われたくありませんわ」
「そうかな。僕は君より賢いつもりだったけど…」
「でも…」
「ん?」
「ありがとうございます、キラ。貴方が私を思って言って下さっている事は、ちゃんと分かってますから」
「…うん、どういたしまして。さ、本当に寒くなって来たから今度こそ中に入ろう。温かいお茶でもいれてくれたら、嬉しいな」
「…ええ、でしたら今日カガリさんに振る舞った、とっておきの茶葉を出してさしあげますわ」










If I were a bird, I would fly to you. もし私が鳥だったら、あなたのところに飛んでいくのに。













あとがき(言い訳)

いやラクス、普通に告れよ。…と、書きながら思いました。

タイトルにある「I wish I were a bird.」は、仮定法過去の文法で有名な一文ですね。 某英会話教室のCMでも使われてたんですが(むしろそれで有名になったのかも?)、世代によっては知らない人もいる…のかな?
文末の一文を見た時に、こういう乙女チック思考はラクスだろう!と、無理矢理こじつけてみたり(笑) …だけど実際ハロって元彼からのプレゼントなんですよ。そう考えると結構微妙なアイテムのような気がするんですが…ね。

ちなみにこの話では特にアスカガが成立してる訳じゃないです。アス←カガです。で、根底にキラフレ。
ラクスは、例えるなら関係が壊れるのを恐れて友人に告れない女の子です。 シチュエーションは違うんですけど、ニュアンス的にはそんな感じ。