ずっと ずっと君を見てた… 《薄荷キャンディ》 「凄いねあなた!どうやったらそんな風に出来るの?」 それが――僕とミリアリアの、初めての出会いだった。 戦火の激しくなった昨今、地球軍の基地がある月はコーディネイターの僕には居心地が悪く、とうとう僕達一家も避難をする事になった。 場所はヘリオポリス…オーブ有するコロニーの一つで、本土と同じく中立地帯を貫く其所。父さんや母さんは僕にプラントに行って欲しかったみたいだけれど、プラントはナチュラルの出入りは基本的に禁止だし…僕はまだ親元を離れる気はなかったから、何とか二人を説得したのだ。 その時はまだ「中立なら平気。第一名乗らなければコーディネイターだなんてバレないから大丈夫!」なんて…もちろん最初は新たな地での生活に胸膨らませていたのだけど。 現実は甘くない。幼年学校時代、アスランのおかげで霞んでいた僕の存在は(こんな言い方よくないけどね)ナチュラルの中だとメキメキと頭角を表して…こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。まぁ、だからと言っていじめられるわけでもないし、いいんだけど。 それでもやっぱり、敬遠の眼差しはビシビシと背中に刺さってきて、正直あの時程アスランを恋しいと思った事はなかった。 ああ神様。早く戦争を終わらせて。そしてアスランと遊ばせて。 頼まれる神様もたまったもんじゃない。 けれど僕は信じてもいない神様(それはもうキリストに始まりお釈迦様やらアッラーやら何でもあり)に祈ったさ。もはや神でもないトリィにまで祈ったさ。 そしてそんな時。 「ねぇ、隣、いい?」 薄茶色の髪の可愛い女の子が屈託のない笑顔を向けてくれて。 ドキリとした。だって今まで女の子ってみんなアスランばっかり見るからさ…初めてだったんだ。一人で女の子と向き合うのは。 「私はミリアリア。ミリアリア・ハウよ。あなたは?」 「…キラです。キラ・ヤマト」 「ふ〜ん、キラね。それより凄いねあなた!どうやったらそんな風に出来るの?」 ほら、タイピング!あなたすっごい早い! そう言いながら嬉しそうに笑う彼女。 その笑顔に…僕まで嬉しくなった。 その笑顔をもっと見ていたい――。 なんて、知らず心の中で願ったり願わなかったり。 ミリアリアとはもちろんそれから友達で。更にと言うか何と言うか、彼女は他の友達を紹介してもくれた。 トールやサイ、カズイと仲良くなったのはミリアリアのおかげ。それは今でもそう思っている。 楽しい時間。 アスラン以外と過ごす、楽しい時間。 ほらやっぱり。ヘリオポリスに来てよかった。皆いい人ばかりだし、優しいし…。 何より。 ミリアリアに出会えたんだから…。 彼女といる時間が一番楽しい。彼女が笑ってくれる事が一番嬉しい。 これがいわゆる“恋心”だと気付くのに、そう時間はかからなかった。 「…え?」 「だから…さ。ミリィとの仲をとりもって欲しいんだ。キラ、ミリィと一番仲いいじゃないか」 「いや…でも…」 「何だよ。もしかしてお前もミリィが好きだとか?」 「っ…そんな事は…ないけど」 「ならいいじゃないか!な!頼む!一生のお願いだから!」 けれど。 気付いた瞬間にはもう遅すぎて。 「……」 まだ僕は後戻りが出来る。けれど彼は…トールは本気。 本気でミリアリアが好き。他人の手を借りてまで彼女が欲しい。 そう思うと…言いだせなくなって。 僕もミリアリアが好きだと。口にする事が出来なくて。 「…分かった」 自分を偽って動かした首は、驚くほどゆっくり。 違う…。 僕は… ミリアリアが好きなんじゃない。 恋と友情を間違えているだけ。 ―コレハ錯覚ナンダ… 「キラ!」 それから彼女に会うのが辛かったのは言うまでもない。 一番大好きな笑顔が僕には凄く毒だった。 「何?ミリアリア」 でも…大丈夫。 僕はまだちゃんと笑えている。 「キラ…私……」 まだちゃんと笑えている。 「キラが…好き」 まだ……。 笑えている? 僕はまだちゃんと笑えてる? 「……ごめん」 さぁ紡ごう。 彼女にとって、僕にとって、一番残酷な言葉を。 「僕は…」 ゆっくり。優しく。 「君を…」 噛み締めるように。 「友達以外には、見られないんだ…」 ――好キナンダ… ――誰ヨリモ 「…君が」 ――好キダッタノニ… 「抱いているような感情は、これから多分、君には抱かない」 足元から平和が崩れ去る音がする。 僕はその時久しぶりにアスランの側にいたかったと願ってしまった。 『凄いねあなた!どうやったらそんな風に出来るの?』 あの時パソコンなんかいじっていなければよかった。 あの時あの席に座らなければよかった。 そうしたら、僕はこんな想いをせずにすんだのに。 彼女を傷付けずにすんだのに。 ヘリオポリスになんて、来なければよかった…。 「…ううん、いいの。私こそごめん」 ミリアリアが謝る事なんて何もない。 「っと…忘れて、今のは!ね?」 忘れられるはず、ないじゃないか。 だって。 僕は。 君がいなければ笑う事すら出来なかったのだから…。 君が全てだったんだから――。 「キラー!」 「カトー教授が探してたわよ?見掛けたらすぐ引っ張って来いって。なぁに?また何か手伝わされてるの?」 笑う君。笑う彼。…笑う僕。 これが僕の望んだ未来。望んだ風景。 僕は今、凄く幸せなんだよ?アスラン。あと君がいれば最高だったのにさ。 「キラー!置いて行くぞ!?」 「あっ…ちょっ!待ってよ!」 けれどね。 たまには過去の事、思い出しても構わないよね? アスランと過ごした日の事を。 アスランと別れた日の事を。 今の友達に出会った事を。 ミリアリアに…恋した事を。 僕の青春は、薄荷飴のように白くて辛い、でもちょっぴり甘い思い出だから――。 《END》 |