初めて彼女の存在を認識した日は、そう、フリーダムの奪還命令を受け彼と再会したあの日。 まだ自分自身どうしたらいいのか、どうしたいのか…歩むべき道が定まっていなかった頃。 自分の周囲の人間が次々と離れていく、その現実に僅かに焦燥にかられていた頃。 彼女は彼から少し離れた場所で、不安気に、その目で彼を見つめていた。 複雑な眼差しで、俺を見つめていた。 別に、その時は何かを思ったわけじゃないんだ。 ただ、ああ彼女が彼の守りたい友人かと、本当のそれだけだったんだ。 傷付けた、とか。 恨まれている、とか。 思わなかった訳ではないけれど。 深く考えなかったのも、また事実な訳で。 《君と僕が出逢った日》 珍しい事だとは、自分でも思っていた。 父の命令に背き、キラと共闘する道を選んでから幾日―― アークエンジェルに乗艦して暫く経つが、俺は未だに此処の環境に慣れないでいた。 いや…元より慣れる気など、初めからなかったのかもしれない。 そもそも慣れろと言うのが土台無理な話と言うものだし、 俺にはその必要性と言うものがいまいち見出せなかったのもまた事実だ。 だからと言って、別に寂しいとか孤独だとか、感じる訳も無く。 アークエンジェルは広い。そして広い割には、人は少ない。 そんな中で一人になるのは思いの他容易な事で、キラと一緒にいない時、俺は気が付いたら一人でいる事が多くあった ――もちろん、必要最低限の会話くらいは交わしはするが。 そしてその時もまた、俺は一人だった。 ただ、一人だったけれども。 「…な…何で…?」 その場所が。 一人になれるような場所では、到底無かった…と、言う所。 「おい、どうかしたのか?…って…」 思わず口走ったのだろうその声に視線を向ければ、 驚きと戸惑いの混じった、何とも複雑そうな面持ちの少女。 そのすぐ背後に窺えるのは元同僚・現同志の金髪の青年。 そう、ここは艦の人間なら誰でも必ず使用する…所謂“食堂”だ。 「アスラン…」 「…ドウモ」 呆然とする二人に俺は小さく気の無い返事を返すと、 それからフイッと視線を逸らす。 別に関わる気も無かったし、何より、先に視線を逸らしたのは彼女の方だったから。 その場を去る…と言う選択肢も無くはないが、それはさすがに俺のプライドが許さなかった。 「ミリィ…」 青年――ディアッカの、心配するような声。 “ミリィ”と言うのは恐らく少女の名前だろう。 そんな事すら俺は知らないのか…と。 それから、相変わらず俺の居場所と言うものは無いのか、とも。 手元にあった、水の入ったままのグラスを弄びながら、俺は小さく笑みを漏らした。 『珍しい』と言われても仕方が無い事は、自分でも分かっていた。 第一俺は、一人でこのような場所に居る事が皆無に等しかったのだ。 食堂を含め、格納庫やその他主要な場所に赴く時。俺は必ずキラと一緒に居たし、 それに多分、キラもそうするようにしていたに違いない。 俺を好奇の視線から守ろうとしているのか、それともただ一緒に居たいだけなのか、 俺はキラではないからその意図は分からないが、漠然と、 それだけは何時も感じていた事だ。 ならば何故、今こうして居るのか―― そう問われれば俺自身も分からない所はあるのだが…。 恐らく俺は、こう答えるだろう。 「疲れたから…」と。 周りに気を使うのも、キラに気を使わせるのも、もう嫌だ。 どうせ初めから友好な関係を築くつもりでも無いのだから、 それならばいっそ開き直ってしまってもいいのではないか…。 ふと、そう思った。 その思考過程も、そして行動も。 その全てが珍しいと、自分でも思っていた。 「…いいのか?お前」 「…何が?」 「いや、だからその…アイツ…」 二人の会話が耳に入り、俺は知らずそれの憶測を立てる。 多分二人は共に食事でも摂るつもりだったのだろう。 まさか俺がキラと一緒と見越して来た…とまではさすがに無いだろうが、 それでも一人で居たと言うのは予想外だったに違いない。 部屋には今は俺一人。彼等が入れば三人。 成る程、向こうにしてみれば気まずい事この上ない。 余りに他人事のように考えるものだから、そんな自分に再び笑みを浮かべた。 「…アンタには関係無いでしょう?」 そう、彼女が静かに呟いて。 ちらりと彼女を一瞥すれば、丁度向こうも同じ動作をしたのか、その大きな瞳と視線が交わる。 少し――そう、ほんの少し。 今まで平静だった鼓動が大きく脈打つ感覚が俺を襲う。 「あっ!おい、ミリィ!」 「何よ、大体何でアンタ付いてくる訳?私、一緒に食べるなんて言った覚えはないんだけど」 「ぐっ…それは…」 彼女とディアッカは何時もこんな感じなのだろうか。 それとも俺が居るから、彼女はこんなにも強気なのだろうか。 俺は知らなかった。 彼女の何も知らなかった。 けれどそれで構わないと思っていたのも事実で。 知りたい、と。 今この瞬間思ったのも事実で。 今迄の思考と彼女に対する想いの矛盾に戸惑う。 何故だ。 関係ないと思っていたのは俺じゃないか。 関わらるつもりはないと思っていたのは俺じゃないか。 それが――何故。 俺の背後を二人が通る気配を感じ、俺はその思考を振り払うように小さく頭を振った。 二人は相変わらず先のような口論に近いものを続けており、気にしないようにと思えば思うほど、その声は耳に届く。 決して仲が悪い訳ではないのだろう。 それどころか、ディアッカは彼女に対してそれなりの好意を抱いているに違いない。 ナチュラルを嫌っていた彼が彼女を気遣うようにばかりしている事が何よりの理由だし、 第一ザフトに所属していた時の俺に対する態度はこんなに優しいものではなかった筈 ――と、まぁディアッカに優しくされてもそれはそれで気味が悪いし、嬉しくもなんともないが。 その時不意に、年下の人懐っこい同僚のように絡んでくる年上の同僚のディアッカを想像してしまい…僅かに自己嫌悪に陥った。 「大体、何で何時も私に絡んでくるのよ!いい迷惑!」 そうか、何時もなのか。 「いいじゃねぇか。時間が合うんだし」 それはお前の口実だろう。 「じゃあ私じゃなくてサイと食べればいいじゃない」 サイって誰だよ。 「…それは……まぁ…」 いや、そこで納得するのか、お前…。 ――と。 気が付けば二人の遣り取りに突っ込んでいる自分。 駄目だ、何でだろうか調子が狂う。 それが彼女のせいなのかディアッカのせいなのかは分からないが、 俺は気付かれない程度の溜息をついた。 そろそろ…キラの所にでも、行こうか。 確かストライクの整備を手伝うと言っていたし、そろそろいい時間だろう。 そうでなくとも俺が行けば、きっと何かしらのリアクションは起こしてくれるだろうし。 結局俺はキラが居なければこの艦には居られなくて、 無関心を決めこんでもそれは心のどこかで彼が居るという安堵に包まれているからで。 「あぁ、何が悲しくてこんな奴と食べなきゃなんないの…」 「一人で食べても味気ねぇだろ」 「アンタと食べても美味しくならないわよ。別に」 音を立てて――と言う訳ではないが、 飲みかけの水をそのままに、俺は静かに席を立つ。 二人がそれに気付かないと言う事は当然なく、視線を向ければ、 二対の瞳が俺を見返していた。 ディアッカは…そう、何となく気まずそうな眼差しで。 そして彼女の方は、何故か残念そうな眼差しで。 ――残念そう…? 僅かな引っかかりを覚えつつ、それでも俺は結局彼女に声をかける事はしなかった。 薄く、愛想笑いを浮かべて。 小さく会釈すれば彼女もそれに返す。 何となく、その事が嬉しくもあり悲しくもあった。 関わるつもりはなかった。 今までも――そして多分、これからも。 だから、俺は、きっと。 傷付けた、とか。 恨まれている、とか。 思わない訳ではないけれど、深く考えもしないだろう。 それでも、もし今回の自分の様に珍しい事があったなら。 「…ねぇ、ディアッカ……」 辞去する時、背後で彼女が彼の名前を呼ぶのを聞いて。 彼が少し羨ましく。 彼を少し妬ましく。 そんな自身に俺は小さく苦笑を漏らした。 後書き(言い訳) 常葉様リク・アスラン視点のアス→ミリ…になってるのでしょうか(汗)? 書きたい事が上手く表現出来ず、中途半端になっている気がします; てか、 舞台が食堂しか思い浮かばん自分が情けない…。 常葉様、リクエストに添えたかは分かりませんが、こんな駄作でよろしければ貰ってやって下さい。 それでは、リクエストありがとうございました☆ |