軽くノックする。

・・・返事が無い。

聞こえなかったのかしら?と、今度は強めにノックしてみる。

・・・返事が無い。

もしかして・・・とミーアは念の為に用意しておいたスペアキーを挿した。備え有れば憂い無しだ。


扉を開けると案の定、電気はすでに消えていた。しかし廊下からの電灯と、月光が部屋の中をぼんやりと照らし出していたので存外明るく、扉近くからでも十分窺い知ることができた。
ミーアが部屋の中を覗き込んでみると、予想通り、部屋の主はすでに夢の世界へと旅立ってしまっているようだった。さすがに顔まではよく見えないが、規則的に上下するシーツと何よりすやすや気持ちよさそうな寝息がそれを物語っている。

(もう寝てる・・・)

ミーアは予想外の展開にどうするか逡巡した後(といってもほんの一瞬だが)、結局は目的を遂行することに決めた。

一応、一緒にいた赤髪の女の子を連れ込んでいないことを首を伸ばして確認する。 どう見ても一人分の盛り上がりしかない。よし大丈夫とミーアは安堵の息を吐いて扉を閉めた。

「アスラン・・・?」

一応読んでみたが返事は無い。やはり寝入っているようだ。それもかなり深く。
ミーアは足音を立てないように、アスランの枕元へと近づいた。

そこには熟睡しきったアスランの顔があって、安らいだ表情が普段より少し幼く見えた。

「こんなに早く寝なくてもいいのに」

少し拗ねたような小さな呟きがアスランの顔の上で漏れたが、彼はもちろんそんなことは露知らず、惰眠を貪っている。

(・・・確かこの人エースじゃなかったかしら?)

侵入者がいるのに全く起きる気配がないアスランにミーアは要らぬ心配をしてしまう。いきなりエースに飛び掛られてもそれはそれで痛そうで怖いのだが。
そのエースはといえば、いつもの仏頂面を引っ込めて寝息を立てている。その緩んだ頬に思わず笑みが漏れる。


しばらく寝顔を眺めていたあと、ミーアは部屋を訪ねてきた目的を達成することにした。
するりと着ていた服を脱ぎ、アスランの傍らへと潜り込む。広いベッドなのとアスランの寝相がいいのとでそれは容易かった。
心地よく温かいベッドに一度身を沈めさせたあと、ミーアはふと思いついて上体を起こし、アスランのぺろんと無防備にさらされているおでこにそっとキスをした。

「おやすみなさい、アスラン」

いたずらが成功した子供のように笑って、ミーアはアスランと同じ安らかな世界へと旅立っていった。